第1回 【市場の警戒感強まる】 2020年9月27日(日)

2021年9月25日金融翻訳チャレンジ

※「金融翻訳チャレンジ」メニューでは、毎週、筆者が課題文を提供。金融翻訳に挑戦してみよう!

※筆者模範翻訳は、2020年10月4日(日)掲載予定

<課題文>

「先週金曜の米国株式相場は大幅続落した。ダウ工業株30種平均が500ドル超下落したほかに、原油や金も大幅安となり、相場が今後さらに荒れるとの懸念も浮上してきた。

景気に敏感な素材や資本財といったセクターが下げを主導した。原油価格も大幅安となったうえに、通常は安全な資産の逃避先と見なされている金も下落するなど、多様な資産クラスが同時安となったことで、市場関係者の間では、3月に市場を襲った混乱が再来するとの警戒感が強まる。」

<筆者の模範翻訳>

The US stock market tanked for the second day in a row last Friday. The Dow Jones Industrial Average plunged more than 500 points, in lockstep with a sharp drop in oil and gold prices, sparking concerns over more turbulence ahead. 

Economically sensitive sectors such as materials and capital goods led the way lower. The simultaneous sell-off in a diverse range of asset classes, also with the collapse in oil prices, as well as the declining price of gold – traditionally seen as a safe haven – spurred alarm among market participants over a repeat of the market turmoil of March.


<解説>

『先週金曜の米国株式相場は大幅続落した。』

「大幅続落する」 = tank 

fallやdrop などばかりでは平凡なため、tank で翻訳。あの著名債券投資家ジェフリー・ガントラック氏も好んで使う表現だ。

「続落」=「(この文脈では)2日連続」 = the second day in a row

two  consecutive days、two days consecutively  などでも可。

『ダウ工業株30種平均が500ドル超下落したほかに、原油や金も大幅安となり、相場が今後さらに荒れるとの懸念も浮上してきた。』

「500ドル超下落」=「暴落、急落」 = plunge

前述と同じく、fallやdrop などばかりでは平凡なため、plunge で翻訳。

『~ ほかに、原油や金も大幅安となり』 = in lockstep with a sharp drop in oil and gold prices

ここの表現は少し難しい。接続詞などを使ってしまうと、かなり冗長的になったしまうため、in lock step with というあまり日本人が使いこなせていない、でも金融英語の本場ではネイティブもしっかり使う表現で翻訳。

in lockstep with  は、「~と同時に、同じ方向に足並みをそろえて」などのニュアンス。

英英辞典 Oxford Dictionary では、

Oxford Dictionary:

a situation where things happen at the same time or change at the same rate

『懸念も浮上してきた』 = sparking concerns

spark 「起こさせる」の意味で、ここでは前述同様、英文が and や他の接続詞で冗長的になってしまうのを避けるため、sparking として分詞構文で翻訳。

『景気に敏感な素材や資本財といったセクターが下げを主導した。』

「下げを主導する」 = lead the way lower と単調にならないよう、よりかっこいい表現で翻訳した。

『原油価格も大幅安となったうえに、通常は安全な資産の逃避先と見なされている金も下落するなど、多様な資産クラスが同時安となったことで、市場関係者の間では、3月に市場を襲った混乱が再来するとの警戒感が強まる。』

この原文は長く、かつ翻訳する時の構成の考え方次第でかなり異なる種類の翻訳が可能なタイプ。長いからと言って安易に2文から3文に分けてしまうと稚拙になり、相当平凡な翻訳になる。

筆者は、原文の解釈上、「多様な資産クラスが同時安となったことで」の箇所を主語としての構成で、もちろん最も翻訳技術が求められる1文でしっかり訳し出してみた。

「同時株安」 = simultaneous sell-off

「原油価格も大幅安となったうえに、通常は安全な資産の逃避先と見なされている金も下落するなど」の箇所を、with の中に、as well as を含めつないで翻訳。 特に「〜と同時に、〜しながら、〜する中」など付帯的状況では、前置詞なら with、接続詞なら while (whilst) が定番ではある。 

「原油価格も大幅安となったうえに、通常は安全な資産の逃避先と見なされている金も下落するなど」 = with the collapse in oil prices, as well as the declining price of gold

前置詞の中で、as well as を使う手法は覚えておきたい。つなぎの典型 and ばかりだと単調だし、 in addition to も頻繁に使われるので、as well as を使いこなせるととても翻訳スタイルの幅が拡がる。

実際のところ withおよび、as well as は日本人が通常認識している以上にとても奥が深いので、本ブログ内、<ワンランク上の金融翻訳>のメニューで改めて特集を組みたい。

「通常」 = traditionally

ordinary、usually などは稚拙になるのでもちろん使わない。

「〜についての警戒感」 = alarm ~ over


金融翻訳に限らず、翻訳力をつけるには、インプットとアウトプットの反復練習が必須だ。インプットととしては、筆者のブログなどのような学習も必要だが、常に金融関連の記事や読書がとても大切である。

アウトプットとしては、実際に圧倒的な量の翻訳をし続けることをお勧めしたい。

本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:金融翻訳チャレンジ にすべて網羅している。

翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。