第1回 【crossroads、insuperable、precipice】
<最高難度やボキャブラリー・ビルディングのための金融語彙> メニューの第1回は、crossroads、insuperable、precipice の語彙を見ていきたい。
crossroads = 岐路、分岐点
「岐路、分岐点」の意味では、turning point (転換のニュアンスが強めだが) や critical point などが日本人にとっても使いやすく、実際頻度も高い。
だからこそ難易度はさほど高くないが、案外使いこなせていないので、ボキャブラリー・ビルディングのためにも crossroads を覚えておこう。特に at a crossroads の形で使われる。
まずは、本ブログでも頻繁に引用される英英辞典で、その微妙なニュアンスもチェックしておきたい。
【英英辞典での crossroads の定義】
Oxford Dictionary: a point at which a crucial decision must be made which will have far-reaching consequences
Cambridge Dictionary: a point where an important choice must be made
Longman Dictionary: a time when someone has to make very important decisions which will affect their future
要は、a point/time when important decisions must be made なのだ。
それでは、金融、経済報道で突出した信頼性を誇る Financial Times でその実用例を確認しておきたい。
<Financial Times の実用例>
But the future of value investing is at a crossroads. Even before the blow-ups at Mr Woodford’s and Mr Barnett’s funds, investors’ faith in value was being tested by its prolonged underperformance due to more than a decade of low interest rates and the rally in growth stocks during the post-crisis bull run.
<対訳>
しかし、バリュー投資の未来は岐路に立たされている。 ウッドフォード氏とバーネット氏のファンドが破綻する前から、投資家のバリュー投資への信頼は、10年以上にわたる低金利により長期化しているアンダーパフォーマンスと、金融危機後の強気相場の中でのグロース株の上昇によって、試されている。
さらに筆者の模範翻訳でその応用を自分のものにしてほしい。
翻訳練習①
<原文>
ジンバブエが国際的な金融支援なしに経済のどん底から抜け出そうと奮闘している中、南部アフリカは微妙な岐路に立たされている。
<筆者の模範翻訳>
In the midst of Zimbabwe struggling to pull itself out of an economic abyss without any international financial support, Southern Africa is at a delicate crossroads.
翻訳練習②
<原文>
FRBは量的引き締めプログラムを推進し、加速的に金融システムからマネーを吸い上げている中、主要中央銀行は、過去10年間に米国のマネーサプライを大幅に押し上げた量的緩和を反転させなければならない可能性があるため 異例の金融政策の岐路に立っている。
<筆者の模範翻訳>
With the Fed pursuing its program of quantitative tightening, as well as draining money from the financial system at an accelerating rate, major central banks are at a crossroads for extraordinary monetary policy, as it may have to reverse the quantitative easing that substantially boosted US money supply over the past decade.
翻訳練習③
<原文>
新興市場の国々は、経済成長の鈍化の可能性に直面し、窮地に立たされているが、明るい側面もあり、過去数十年ほどの脆弱性はないとの予測もある。
<筆者の模範翻訳>
Emerging market countries are at a crossroads, facing the possibility of slower economic growth, although there are some upbeat aspects and some forecasts say they are not as vulnerable as they were in previous decades.
insuperable = 解決出来ない、克服出来ない、乗り越えられない
次は、insuperable だ。最高難度の単語である。もちろん金融分野でもネイティブはしっかり使ってくるが、日本人では、この単語を知っている人の方が圧倒的に少ないのではないだろうか。
「解決出来ない、克服出来ない、乗り越えられない」の意味であるが、このような時、日本人翻訳者は、cannot overcome など動詞を使って訳出しようとしたり、中には impossible to solve など少し稚拙な訳語でしか対応できない人もいるのが現実だ。だからこそ、この機会にinsuperable をぜひ覚えて次の翻訳機会には自信をもって使おう。
まずは英英辞典で確認すると、
【英英辞典での insuperable の定義】
Oxford Dictionary: (of difficulties, problems, etc.) that cannot be dealt with successfully
Cambridge Dictionary: (especially of a problem) so great or severe that it cannot be defeated or dealt with successfully
Longman Dictionary: an insuperable difficulty or problem is impossible to deal with
つまり、cannot be dealt with successfully の意味なのだ。
Financial Times で実際の使われ方を見てみよう。
<Financial Times の実用例>
As such, it needs a functioning fiscal policy more than ever. The route of further fiscal integration appears to face insuperable political roadblocks. That leaves national fiscal policies as essentially the only game in town.
<対訳>
そのため、これまで以上に機能する財政政策が必要である。さらなる財政統合の道筋は、解決できない政治的障害に直面しているように見える。そうなると、国の財政政策が、基本的には唯一の選択肢になってしまう。
それでは完全オリジナルである筆者の模範翻訳にてさらにその使いこなしを確認しておこう。
本ブログで一貫しているのは、豊富な練習量(学習量)の推奨。翻訳力、英語力の向上は、質は高くても少量の学習だけでは不十分で、応用への対応なども含めて真には身につきにくい。これはスポーツ他、何事も同じであろう。理屈として頭だけで消化しようとしている限りでは、変化を伴う環境で弱く、翻訳もその点は同じである。言葉というもの、その表現の形の可能性は無限である。その無限の世界で縦横無尽に創作していくにはある程度無意識にでも内から溢れ出てくるくらい自身の中に各表現や言い回しを覚え込ませることが大切だ。そのためにも各英語例文をその意味と文法的な構造を咀嚼し、噛み締めながらの音読学習はぜひともお勧めしたい。
またその音読学習については、多読多聴とシャドーイングとも併せて、最強の学習法としても本ブログ内で特集する予定だ。
翻訳練習①
<原文>
独占禁止監視機関で懸念されるのは、企業が自社製品の契約数や機能の利用状況などの独占的な運用データを大量に蓄積し、それを人工知能や機械学習技術の素材として利用することで、新規参入企業に対して圧倒的な競争優位性を生み出す可能性があるということだ。
<筆者の模範翻訳>
One concern at the anti-monopoly watchdog agency is companies amassing volumes of exclusive operating data on their products, such as the number of subscriptions or usage status of features, and using it as the raw material for artificial intelligence or machine learning technologies, which could create an insuperable competitive advantage over new entrants.
翻訳練習②
<原文>
投資における基本原則上は、超過リターンが単純に裁定取引されるスマートベータは、アルファを上回ることはできないとされるのに対し、最新の研究では、ベータに対するこのような反対意見は絶対のものではないことを明らかにしており、スマートベータ戦略に基づくオルタナティブインデックスによって必要とされるリバランスをすることで継続的にアウトパフォーマンスできる点を指摘している。
<筆者の模範翻訳>
Whereas, in a bedrock principle on investing, smart beta, whose excess return will simply be arbitraged away, cannot outperform alpha, a new research suggests that such an objection against beta is not insuperable, pointing out rebalancing required by alternative indexing based on smart-beta strategies will continue to generate outperformance because it entails buying losers and selling winners.
翻訳練習③
<原文>
1990年代後半、海外進出を目指す米国の石油会社は、外国人を歓迎しない中東政府が支配する世界のほとんどの油田へ投資を行うことには、機会の乏しさと、ほぼ克服できない障壁があると苦言を呈していた。
<筆者の模範翻訳>
In the late 1990s, US oil companies seeking to expand overseas complained of meager opportunities and nearly insuperable barriers to making investments in most of the world’s oil wells controlled by Middle Eastern governments that did not welcome foreigners.
precipice = 危機、窮地
今回の最後は precipice。
「危機」とくれば、crisis あるいは danger あるいは critical situation ぐらいしか思い浮かばない人は多いのではないだろうか。
そんな時は、ぜひ precipice を覚えておこう。ネイティブは金融分野でもしっかりこれを使ってレポートや記事を書いている。
英英辞典での定義は次の通りだ。
【英英辞典での precipice の定義】
Oxford Dictionary: being very close to disaster
Cambridge Dictionary: a dangerous situation that could lead to harm or failure
Longman Dictionary: a dangerous situation in which something very bad could happen
disaster は未だ生じていないのだが、それに close な dangerous situation ということだ。
この単語の金融分野での用例を見ておくためFinancial Timesでそのauthenticity (真正性) を確認しておきたい。
<Financial Timesの実用例>
Whenever China and the US appeared to be on the precipice of an all-out trade war over recent years — such as when trade talks faltered in late 2018 and early 2019 — Mr Xi has responded by celebrating the party’s revolutionary roots while also trying to reassure the private sector.
<対訳>
近年、中国と米国が全面的な貿易戦争の危機に瀕しているように見えたとき、例えば2018年後半や2019年初頭に貿易協議が頓挫したときなどはいつでも、習氏は党の革命的ルーツを称賛する一方で、民間セクターを安心させようとすることで対応してきた。
通常、precipice 単独ではなく on the (a) precipice の前置詞句で表現されることが多い。
早速、翻訳練習と筆者の模範翻訳でさらに深めておこう。
翻訳練習①
<原文>
最近の調査では、パンデミックが利益を圧迫し、投資も激減しているため、地域の中小企業の3分の1が年内に閉鎖しなければならない可能性が明らかになり、実際、多くの中小企業が財政的窮地に追い込まれている。
<筆者の模範翻訳>
A recent survey found that one-third of SMEs in the region may have to close within the year as the pandemic crimps profits and depletes investments, and indeed, many of them are on a financial precipice.
翻訳練習②
<原文>
世界は深刻な金融ショックと資産価格が軒並み急落しているという危機に陥っている中、投資家はおそらく安心させてくれる金融データを強く求めている。
<筆者の模範翻訳>
With the world seemingly on the precipice of a severe financial shock and their across-the-board asset prices sharply heading south, investors perhaps desire some financial data to give you comfort.
「危機」、「窮地」の precipice であるが、ここでもう一つだけ同義の表現を紹介しておきたい。これは単語ではなく vultures are circling という文である。つまり 「ハゲタカが死にかけている獲物の上空で旋回している」 → 「危機(窮地) に頻している」という比喩でもある。こうした表現はフォーマルな文書では使えないが、粋な読み物としてはネイティブも好んで使う。
翻訳練習④
<原文>
中東産油国が運営する国営石油の巨人などが、米国シェールセクターに定着する崩壊の匂いを嗅ぎ、その最弱者は、それらに起因する過剰な供給過剰と新型コロナウイルスによって失われた世界的な需要を受けて、米シェール企業は現在窮地に追い込まれている。
<筆者の模範翻訳>
Vultures are now circling over US shale companies as the state oil giants of oil producing countries in the Middle East and others alike can smell the decay setting into the shale sectors and its weakest are dying from the excess glut they caused and global demand lost to the Covid-19.
以上、最高難度の語彙や日本人にはレアな語彙での金融翻訳も時にはいいものだ。
本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:最高難度の語彙や日本人にはレアな語彙での金融翻訳 にすべて網羅している。
翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。
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