第6回 【「市場の暴落」 の金融バズワード “swoon”】

2021年9月29日知っておきたい金融表現,金融翻訳

         

「(市場の)暴落」と言えば、market crash、collapse、free fall、あるいは massive sell-off などがすぐに思い浮かぶのではないだろうか。 だが、欧米ではこんな 「暴落」 の用語がバズワードとして頻繁に登場する。

(market) swoon

だ。

この用語は、特に株式市場(債券やコモディティでも使用可能)の全面的な急落時に好んで使われている。stock-market swoon として。 金融メディアにおいて世界的水準でもある Financial TimesThe EconomistWall Street Journalなどでも登場するのは言うまでもない。  

swoon の元々の意味は、「気絶、卒倒」などで、 念のためお馴染みの英英辞典で確認しておくと、

Oxford Dictionary: the state of being unconscious

つまり、「意識を失った状態」のこととある。

この「気絶、卒倒、失神」の状態を市場の急激かつ大幅下落になぞらえた比喩として表したのが swoon というわけである。

それでは、いつものように swoon を使う上での authenticity (真正性) を担保するために、Financial TimesThe EconomistThe Wall Street Journal でその用例を見ておきたい。


<Financial Times からの実用例>

But investors may be overestimating the importance that Mr Trump places on rising stock indices. After all, the self-proclaimed Tariff Man can always blame market swoons on the Federal Reserve’s reluctance to cut interest rates and restart quantitative easing — an argument he has been pushing aggressively since last year.

<対訳>

しかし、投資家はトランプ氏が株価指数の上昇を重視していることを過大評価しているのかもしれない。結局のところ、自称「タリフマン(関税の男)」は、FRBが利下げや量的緩和の再開に消極的になったことで市場が暴落したといつでも非難することができる。彼が昨年から積極的に推し進めてきた主張だ。

<The Economist からの実用例>

The marked deceleration in job growth that was hammered home by last week’s June job report was striking in its resemblance to the summer swoons of both 2010 and 2011.

<対訳>  

先週の6月の雇用報告で強調された雇用成長の著しい減速は、2010年と2011年の夏の暴落に類似しているという点で印象的だった。     

<The Wall Street Journal からの実用例>

Gold, bonds failed to protect investors amid stock-market swoon:  Investors worry that a lack of protection from traditional safe havens leaves them exposed during the U.S. election and an upsurge in Covid-19 cases.

<対訳>

金、債券は株式市場暴落の中で投資家を守れなかった。投資家は、米国の選挙と新型コロナウイルス感染事例が急上昇する中で、通常はセーフヘイブン(資金の安全な逃避先)とされる資産からのプロテクションが欠如していためそれらがリスクにさらされている点を懸念している。


では、最後にいつもお馴染み、この swoon を使っての筆者のオリジナル模範翻訳で、さらに応用力、創造力、発想力を高めるための実践練習をしておこう。

※原文の内容はすべて筆者のオリジナルであり、fiction (フィクション) である。ただ、日々膨大な情報ソースを基にしての着想と創作により、世界・経済情勢の事実に即している部分もある。

筆者によるオリジナル模範翻訳

練習①

<原文>

同スタートアップは、外部からの圧力に屈し、資本金を追加調達したが、その後新型コロナウイルスに起因する暴落が続いたため、わずか1週間で企業評価額が10%も急落した。

<筆者の模範翻訳>

The start-up raised additional capital after caving in to outside pressure, followed by a coronavirus-induced swoon that sent its valuation plunging 10% in just a week.

練習②

<原文>

英国と欧州連合(EU)との貿易交渉が前向きに進展したことで、ポンド買いの勢いはさらに増し、Brexit国民投票直後のポンド相場の暴落は記憶から消えつつある。

<筆者の模範翻訳>

The pound-sterling’s swoon immediately after the Brexit referendum is fading from our memory, with it having gained further momentum following the positive development of trade negotiations between Britain and the European Union.

練習③

<原文>

ハイテク株の緩やかな下落が急転直下、7月8日に暴落し、3大指数すべてが5%以上の下げとなり、それによって投資家はいっそう神経質になったが、その大幅下落は実のところコンピューターを使ったアルゴリズム投資戦略が因となっていた。

<筆者の模範翻訳>

A gradual fall in tech stocks suddenly turned into an unnerving slide on July 8th, when all three major indexes suffered more than 5% decline, which caused investors were feel more nervous, but the swoon was driven by computer-powered algorithmic investment strategies, indeed.


どうだろう。使い方が把握できただろうか。

今後、「暴落」が原文にある時は、時には swoon を使ってみてほしい。

ただ、こうした本ブログ内で扱う buzzword や 高難度語彙などで翻訳する時の注意点が一つある。それは、翻訳の読み手が日本人で、あまり英語に堪能でない場合や、金融の広範な語彙に明るくない場合は、日本人にあまり馴染みのない語彙を使うと誤訳と勘違いされたり、あるいは何らかの不満を持たれる可能性もある、ということだ。この点だけはいつも留意して、クライアントや読み手に応じて、翻訳のスタイルや語彙を使い分けることも必要である。

※ 本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:知っておきたい金融表現 に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。

翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。