第6回 【警戒感高まる中での社債大量発行】 2020年11月22日(日)

2021年9月30日金融翻訳チャレンジ

※「金融翻訳チャレンジ」メニューでは、毎週、筆者が課題文を提供。金融翻訳に挑戦してみよう!

※筆者模範翻訳は、2020年11月29日(日)掲載予定

<課題文>

世界でも屈指の高格付け企業が調達コストの上昇という向かい風をものともせず、社債を大量に発行し、巨額の資金調達をして不況への抵抗力を強めている。一方で、信用力の低い低格付け企業は苦戦を強いられたままだ。世界の「投資適格」企業による社債の発行額は5月にこれまでで6,500億ドルと急増し、過去最高を更新した。これは、米連邦準備理事会が社債の購入に踏み込む非伝統的措置を打ち出すなど、各国の中央銀行や政府が追加の金融支援策を発表したことに端を発している。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が収まらないのを受け、世界中の企業は総じて資金確保を急いでいる。社債を発行する企業だけでなく、緊急融資枠や保証枠利用する企業も後を絶たない。企業の財務担当者は景気悪化による収入減でも耐えられるバランスシートへと強化しようとしているというわけだ。

ただ前段でもふれたように、コロナ危機が多くの企業の信用力を脅かし金融市場が混乱するのを受け、投資適格企業の調達コストは上昇している。高格付けの優良企業が手元資金を積み上げているとはいえ、債務不履行が急増すれば経済にしわ寄せが及ぶと市場アナリストらは警鐘を鳴らす。

一部の企業ではコスト削減に向けてすでに人員削減にも着手しており、米国では足元で失業保険の申請件数は過去最大規模に増加しているなど、先行きへの警戒感は拭えない。

<筆者の模範翻訳>

Some of the world’s highest-rated companies have bolstered their ability to survive the economic downturn, absorbing the headwind of higher borrowing costs to raise billions of dollars through debt issuance. Meanwhile, lower-rated companies with poor creditworthiness are struggling. Global corporate bond issuance by “investment-grade” companies has spiked to a record high of $650 billion so far in May. This surge came after central banks and governments announced additional financial support measures, including the Fed rolling out an unorthodox step to purchase corporate bonds.

With no end to the Covid-19 pandemic in sight, companies around the world are generally rushing to secure cash. Corporate bond issuance, as well as emergency credit lines and  credit guarantees drawdowns shows no sign of ending.Corporate treasurers are trying to strengthen their balance sheets so that they can withstand lower revenues from the economic slowdown.

Even so, as mentioned earlier, borrowing costs for investment-grade companies are rising as the Covid-19 crisis threatens the creditworthiness of many companies and disrupts financial markets. Market analysts caution that despite best blue-chip companies piling up cash reserves, a sharp increase in defaults could send ripples through the economy.

Some companies have already begun cutting jobs in an effort to cut costs, and with the number of US unemployment benefit claims now at an all-time high, caution will likely linger going forward. 


<解説>

『世界でも屈指の高格付け企業が調達コストの上昇という向かい風をものともせず、社債を大量に発行し、巨額の資金調達をして不況への抵抗力を強めている。』

「世界でも屈指の高格付け企業」 = the world’s highest-rated companies

「調達コストの上昇」 = higher borrowing costs

「上昇」は、a rise in borrowing costs、rising borrowing costs などの訳し方が多いが、higher borrowing costs など、比較級でも上昇しているニュアンスをしっかり表現できるので押さえておきたい。

「〜 向かい風をものともせず」 = absorbing the headwind of ~

「向かい風」 = headwind 、「追い風」 = tailwind に対する反意語でもある。「逆風」の意味。

「〜をものともせず」 = in (the) face of ~、 despite ~ でも可能。今回はもう一段深く原文の内容を咀嚼してabsorb を分詞構文として活用。分詞構文の詳細はここではふれないが、簡潔に言うと、分詞構文  ~ ing  は、主語を省略してほとんどの接続詞の意味をこの~ ing形に含み表現することが可能だ。when、although、and、while などなど。

また、受験英語や一般英語学習でもあまり耳にしたことのないであろう分詞構文の活用の意義は、どの接続詞を使おうか迷った時にも分詞構文さえあてはめれば問題のすべてが解決するということである。例えば、「彼女は翻訳の勉強をして、気分がよくなった」という原文がある場合、「〜の勉強をして」の箇所に何か接続詞が必要だが、and、when、after などなどどれにしようか迷うだろう。そんな時、

She studied translation, feeling better.

Or  

Studying translation, she felt better.

と言ってしまえば、問題は一気に解決だ。このように分詞構文を使って表現してしまえば、特にネイティブは文脈に応じて勝手に判断し内容を把握してくれる。このように分詞構文も、我々日本人が受験を通じて身につけてきた定義以上に、ネイティブはもっとフレキシブルかつ多様に捉えていることは常に意識しておきたい。

今回は、いろいろ混在したニュアンスの中でも、while の言い換えと考えてもいいだろう。

また、absorb は、  英英辞典 Longman Dictionaryの定義でも、

Longman Dictionary:

①if something absorbs changes or costs, it accepts them and deals with them successfully

②to reduce the effect of a sudden violent movement

とあり、ここでは、①と② どちらの定義でもあてはまる。

つまり、単にin (the) face of ~、 despite ~ などを使って「調達コストの上昇にもかかわらず」という状況結果的なニュアンスで留まった訳出をする以上に、 「調達コストの上昇」をしっかり absorb しながらとの、その状況過程のニュアンスも表すことが可能になるわけだ。このボキャブラリーの違いによる微妙なニュアンスの過不足は、たいていの日本人には気づかないレベルかもしれないが、ネイティブにはしっかり伝わるので、翻訳力向上の段階に応じて使いこなしていきたい。

あと今一度この文全体の構成を考えてみたい。

『世界でも屈指の高格付け企業が調達コストの上昇という向かい風をものともせず、社債を大量に発行し、巨額の資金調達をして不況への抵抗力を強めている。』

とある場合、日本人特有の英文構成では、

some of the world’s highest-rated companies have bolstered their ability to survive the economic downturn by issuing large amounts of corporate debt to raise billions of dollars ~ 

などが発想しやすいのではないだろうか。もちろんこれでも大きな問題ではない。ただ、金融分野に精通したネイティブの視点では、少々冗長的な感がする。つまり、この場合も、日本語原文をよく咀嚼してみると、「社債を大量に」と「巨額の資金調達」の2点はある意味で同じことなので、安易に表現を分けてしまうと、上記の英文例のようにくどくどしくなる。さらに言うと、「調達コストの上昇」の「調達コスト」は、「巨額の資金調達」の際の「調達コスト」のことなので、ここも原文通りに離して訳出してしまうと重複感があり、少しだけ直訳的にもなってしまう。

これらをふまえてより流暢さを意識した翻訳が、

Some of the world’s highest-rated companies have bolstered their ability to survive the economic downturn, absorbing the headwind of higher borrowing costs to raise billions of dollars through debt issuance.

との構成になると理解されたい。特に上記説明箇所は、

higher borrowing costs to raise billions of dollars through debt issuance 

などとかなり要点をまとめた翻訳にしている。

「抵抗力を強めている」 = bolstered their ability to survive ~

ここで「抵抗力」をそのまま直訳してしまうと、

power of resistance

resistibility

make them more resistant to the recession

などが思い浮かぶだろうが、やはり少々硬い翻訳になるのと、あとネイティブも企業が不況への抵抗力を強めている、と表現するときに、これらの英語はあまり見ない。こうしたネイティブが好んで使っているか、使っていないかの判断は翻訳者にとってはとても大切な視点で、そのためにも日頃から金融メディアや洋書は寸暇を惜しんで読み込み、ネイティブはどのような表現や言い回しをするのかはチェックしておきたい。

したがって、ここでは「抵抗力」は、抵抗力でも、「企業が不況を乗り越える能力」と咀嚼して、

their ability to survive ~

と翻訳。このsurvive は、「生き残る」がよく知られた定義だが、「(困難や逆境など)を乗り越える」の意味でもよく使われ、その点では、

weather

も同義だ。

『一方で、信用力の低い低格付け企業は苦戦を強いられたままだ。』

「一方で」 = meanwhile

on the other handの頻度が最も多いだろうが、meanwhileや in the meantime などもいつでも使いこなしたい。

「信用力の低各付け企業」 = lower-rated companies with poor creditworthiness

普通、lower-rated companies だけでも信用力の低さのニュアンスは含まれているので、with poor creditworthiness は省略しても問題ではない。

「苦戦を強いられたままだ」 = be struggling

現状の事実を表すstruggle と現在形でもいい。be struggling と敢えて進行形にすることで少し足元の臨場感を高めている。

『世界の「投資適格」企業による社債の発行額は5月にこれまでで6,500億ドルと急増し、過去最高を更新した。』

「投資適格」 = investment-grade

「社債の発行額」 = corporate bond issuance

「〜額」とあるが、日本語の文字通りにamount とつけず、issuance という基本的には「発行」の定義であるが、金融分野では、「発行額」も含意するので、細かいがこうしたより流暢な言い回しも覚えておきたい。日本人はとかく原文の文字をすべて訳出し過ぎる時も多々あるので。ここでも amount を加えてももちろんいいのだが、いつもamount だらけでも翻訳としてぎこちない。ちょうど、

「負債額」 = debt

として、くどくamount of debt と表現しなくてもいいのと同じである。

「急増し、過去最高を更新した」 = spike to a record high

「急増する」 は、surge などもいい。rise sharplyやincrease rapidly などももちろん使えるが、spike、surge、あるいはskyrocket など、「急増する」にはたくさんあるので、本ブログ内 金融翻訳例文集:ボキャブラリー別金融翻訳(動詞(句)編) にて筆者のオリジナル模範翻訳とともに網羅しているのでぜひ参照されたい。

『これは、米連邦準備理事会が社債の購入に踏み込む非伝統的措置を打ち出すなど、各国の中央銀行や政府が追加の金融支援策を発表したことに端を発している。』

「米連邦準備理事会」 = the Fed

「米連邦準備理事会」、あるいは「米連邦準備制度理事会」は、日本語から英語への翻訳は、the Fed が基本。ただ、原文が英語で、英語から日本語への和訳の場合、原文にthe Fedとあってもその訳出は「米連邦準備制度理事会(FRB)」など、FedではなくFRBと訳出するのが基本なので和訳のときは留意しておきたい。

「非伝統的措置」 = unorthodox step

「非伝統的〜」とあれば、通常unconventional の訳語が多い。ただ、時には異なる訳語で、より語彙の豊富な翻訳を創作するためにも、unorthodox なども言い換えとして覚えておきたい。このunorthodox、orthodox の使いこなしは、本ブログ内、<知っておきたい金融表現> 第4回 【「非伝統的~」 はどう訳す?】でも特集しているので、ぜひご参照を。

「〜を打ち出す」 = roll out

ここでは adopt や introduce などもOk。

「米連邦準備理事会が 〜 を打ち出す」 = the Fed rolling out

ここもワンランク上の翻訳を追求するためにはぜひマスターしておきたい表現法。

including の後なので何らかの名詞形が来なくてはいけないのだが、 「米連邦準備理事会が 〜 を打ち出す」という本来なら、名詞表現ではなく、文で訳出する方がしやすいものが続く。この場合、関係詞や接続詞などを駆使して訳出してももちろんいいのだが、敢えて名詞 + ~ ing の形でよりコンパクトに英文構成するところが、とてもネイティブも好むスタイルである。

この手法を上級翻訳への必須手法なので、本ブログ内、<ワンランク上の金融翻訳> 第2回【ワンランク上の翻訳には欠かせない表現法:前置詞 + 目的語 (意味上の主語) + ~ing (動名詞)、前置詞 + 目的語 + ~ ing(現在分詞)】 で詳説しているので、こちらも確認されたい。

『新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が収まらないのを受け、世界中の企業は総じて資金確保を急いでいる。』

「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が収まらないのを受け」 = with no end to the Covid-19 pandemic in sight

金融翻訳に限らず、翻訳全般でも with + O (目的語)+ C (補語) を自由自在に使いこなすことによって、英文の上質感が大きく高まる。また、このwith + O (目的語)+ C (補語) の形は、受験英語で勉強したようなことはほんの氷山の一角で、その応用は実に多岐にわたる。本ブログ内にて、近日その全容を紹介してみたい。

「資金確保を急いでいる」 = be rushing to secure cash

『社債を発行する企業だけでなく、緊急融資枠や保証枠利用する企業も後を絶たない。』

「緊急融資枠」 = emergency credit line

「保証枠」 = credit guarantee

これらの金融用語は、特にこのコロナ危機の中で頻出語句でもある。本ブログ内でもこうした金融用語は、金融翻訳用語集検索インデックス にて約10,000語(2020年11月29日付)網羅しているので、翻訳の補助として活用されたい。

「(緊急融資枠や保証枠など)利用する」 = drawdown

「融資枠」などの利用は、draw down が基本動詞である。金融では、融資など資金を「引き出す」行為を表す。ただ、資金などを「削減する、減少させる」などの定義もあるので、文脈に応じてしっかりと使い分けたい。

ここでは、動詞句ではなく、drawdown と、その名詞形を使っている。emergency credit lines and  credit guarantees drawdown という翻訳にして、動詞を使って冗長になるのを避け、コンサイスな名詞句にしている。 

「後を絶たない」 = shows no sign of ending

日本語ではよく使う表現であるが、英語には少々訳しにくいかもしれない。そういう時は、日本語を文字通り考えるのではなく、柔軟な発想が大切になる。ここでも「後を絶たない」とは、つまり、「終わりが見えない」ことでもあるので、shows no sign of ending という英文が可能になるわけだ。

『企業の財務担当者は景気悪化による収入減でも耐えられるバランスシートへと強化しようとしているというわけだ。』

「バランスシートへと強化する」 = strengthen their balance sheets

言い換えとして、stronger balance sheetやstrong balance sheet など、strong の形容詞形を軸にしての訳出でもいい。いずれにしろ、バランスシートの強化には、strong系が相性がいい。他にも、shore up やreinforce なども押さえておきたい。

「収入減でも耐えられる」 = withstand lower revenues

『ただ前段でもふれたように、コロナ危機が多くの企業の信用力を脅かし金融市場が混乱するのを受け、投資適格企業の調達コストは上昇している。』

「ただ」 = even so

金融分野でも、「しかし」は、however がダントツに頻々と登場する感は確かにある。実際、筆者の翻訳会社内チェッカー時代にも、「だが」や「しかし」には、howeverでしか訳出してこない翻訳者も存在していたのは事実だ。この点どうだろう。ネイティブも同様にhowever しか使っていないのであればそれでよしだが、もちろんそうではない。ネイティブのライティングには、

nevertheless

nonetheless

that said

having said that

even so

などなど実に多岐にわたって使われているのがわかる。案外、日本人にとっても一番馴染みのある but も当然よくお出ましだ。

以上、今回はeven so で逆説の始まりとしたい。

「信用力」 = creditworthiness

「金融市場が混乱する」 = disrupt financial markets

「混乱させる」は、cause dislocations など他にも言い換えはたくさんある。

『高格付けの優良企業が手元資金を積み上げているとはいえ、債務不履行が急増すれば経済にしわ寄せが及ぶと市場アナリストらは警鐘を鳴らす。』

「手元資金」 = cash reserve

「積み上げる」 = pile up

「優良企業」 = blue-chip company

「警鐘を鳴らす」 = caution

金融分野では、この「警鐘」の表現はとても多い。特にリスクオンの相場が、ブラックスワンやテールリスクも含めて、いつ何時リスクオフ局面へと転換するかは予測しにくく、経済学者やアナリストはこの「警鐘」や「警告」を発して、市場に注意換気するのが常となっている。

<Note>  

テールリスクとは、発生する確率が低いけれども一度起こると非常に大きな損失や下落をもたらすリスク。

ブラックスワンとは、マーケットにおいて、事前に発生する時期や被害が及ぶ範囲の予想が不可能で、起きた時の衝撃が甚大な事象のこと。

 

「高格付けの優良企業が手元資金を積み上げているとはいえ」 = despite best blue-chip companies piling up cash reserves

ここでも前述箇所、「米連邦準備理事会が 〜 を打ち出す」 = the Fed rolling out で解説したワンランク上の翻訳には必須手法、前置詞 + 目的語 + ~ ing での翻訳。

despite (前置詞) + best blue-chip companies (名詞) + piling up cash reserves (~ ing)

という構造。

「債務不履行が急増すれば経済にしわ寄せが及ぶ」 = a sharp increase in defaults could send ripples through the economy

ここもとても重要なチェックポイント。

この原文であれば、日本人の多くは、「債務不履行が急増すれば」のところで、何か接続詞をあてがって英文の構成を考えると思う。それでもOkだ。ただ、ここでもワンランク上の翻訳を目指すなら、接続詞 + S + V ~ ではなく、「債務不履行の急増が〜」の着想に発想転換して名詞句としてまとめてしまう。これによって、「債務不履行の急増が経済に影響を及ぼす」との解釈となり、

a sharp increase in defaults could send ripples through the economy 

との英文構成となるわけだ。特に、could は断定ではなく、仮定としての可能性のニュアンスを含意しているので、元々の原文「債務不履行が急増すれば」の「〜すれば」をしっかり受け止めることができている。

このようにwould、could、might、should などなど推量や仮定の意味を伴う助動詞は、接続詞を使わず、名詞句を主語にする翻訳にとても適しているのでしっかり習得することをお奨めしたい。もちろん、willやcanほか、通常の動詞でも上記手法に使えるときもある。 

これら重要手法は、本ブログ内、<ワンランク上の金融翻訳> 第5回 【接続詞を使わず、名詞句を主語にするワンランク上の翻訳とは?】にて、筆者が詳説しているので、ぜひご参照を。

「経済にしわ寄せが及ぶ」 = send ripples through the economy

この「影響が及ぶ」には、

spill over into

spread across

knock on effect

reverberate

fallout

などなどあるので、言い換え表現として確認しておきたい。

また、日本人にはとてもレアな語彙としては、

ricochet through the economy

というricochet through もあり、これも欧米ネイティブは金融分野の記事やレポートで使うことがあるので知っておくと有意義だ。

『一部の企業ではコスト削減に向けてすでに人員削減にも着手しており、米国では足元で失業保険の申請件数は過去最大規模に増加しているなど、先行きへの警戒感は拭えない。』

「コスト削減に向けて」 = in an effort to cut costs

「〜に向けて」、「〜を目指して」、「〜を念頭に」などのニュアンスの語彙はとても多いが、

in a bid to do ~

with a view to (doing/do) ~

with an eye to (doing) ~

with the intention of doing ~

for the purpose(s) of ~

with the purpose of ~

with the aim of ~

in the aim of

in a bid to do ~

in an attempt to do ~

などなど、ざっと上げてもこれくらいあり、実際もっとある。金融翻訳の際、「〜を目標に」の表現は頻出なので、その訳出がワンパターンにならないように、言い換えもしっかり押さえておきたいものだ。

「失業保険の申請」 = unemployment benefit claim

「米国では足元で失業保険の申請件数は過去最大規模に増加しているなど」 = with the number of US unemployment benefit claims now at an all-time high

ここでも with O + C の形が使える。原文は、「増加しているなど」と、「〜など」とあるが発想を変えれば、「増加している中」、「増加を受けて」とも咀嚼可能だ。こう考えればもっと with が使えると思いつきやすいのではないだろうか。

「先行きへの警戒感は拭えない」 = caution will likely linger going forward

ここは、原文の文字通りに考えようとするとかなりぎこちない訳出になりかねないので注意が必要。

直訳すれば、「警戒感は拭えない」 = cannot get rid of a sense of caution、eliminate a sense of cautionあるいはremove a sense of caution など。

そうではなく、ここでも発想をもっと柔軟にしたい。「警戒感は拭えない」とそのまま否定の意味合いばかりを考えるのではなく、その逆を考えてみる。そうすれば、「警戒感は依然残る」と肯定的な着想になるわけだ。またこの方がネイティブの語感でもより流暢で自然である。したがって、

「先行きへの警戒感は拭えない」 = caution will likely linger going forward

linger も積極的に使いたいとても高尚な語彙である。Oxford Dictionary でその定義を確認すると、

Oxford Dictionary:  to continue to exist for longer than expected

とあり、「想定以上に長く存在し続ける」ことを指す。ポジティブな内容でも使えるが、こうした「警戒感」や「懸念」などネガティブな事柄で使うことが多いので覚えておこう。


本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:金融翻訳チャレンジ に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。

翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。

では、また来週をお楽しみに!