<最高難度の語彙や日本人にはレアな語彙での金融翻訳> メニューの第2回は、exuberance、euphoria、frenzy を取り上げたい。
これらはすべて 「熱狂」 「高揚感」 を意味する。
そう、投資家のアニマル・スピリットが荒れ狂い、資産価値が過剰に評価される市場でバブルが醸成がされ、とてもファンダメンタルズでは正当化できない、その時の投資家心理を表す語彙である。
例えば、米連邦準備理事会(FRB)元議長のアラン・グリーンスパン氏が、1996年12月に、株価の上昇に対し、「根拠なき熱狂 (irrational exuberance)」 という言葉で警鐘を鳴らしたことが有名だ。
現在で言えば、新型コロナウイルスの感染拡大による経済危機、つまり、コロナショックにより大打撃を受けている金融・経済を救済するため、各国中央銀行が金融緩和を実施し、主要国政府が緊急経済対策を行なっている中、これらはおよそ 1,300兆円規模のマネーとして金融市場に流れ込むこととなり、過剰流動性によるバブルが懸念されている。連日、米主要株価指数などは最高値更新し、「狂乱相場」 、「過度の熱狂」 などの投資家のマインドを描写するフレーズが新聞の見出しに踊っている。
こうしたバブルの温床となる投資家心理の翻訳語は、ありきたりのものではなく、欧米メディアでも頻出する最も洗練された言い回しはぜひおさえておきたい。
そのためにも exuberance、euphoria、frenzy は必修語彙である。
<定義>
exuberance = 活況、熱狂、高揚感、過熱感
euphoria = 根拠のない過度の幸福感、高揚感、過度の楽観、ユーフォリア、陶酔感、熱
frenzy = 熱狂、狂乱、極度の興奮状態
として、ほとんど同様のコンテキストにて活用され、その過剰な高揚感では同じであるが、frenzy がもう一段狂乱的ではある。
念の為、より正確に繊細なニュアンスを確認しておくため、英英辞典にてその定義を参照しておきたい。
exuberance
Oxford Dictionary: the quality of being full of energy, excitement and happiness
Cambridge Dictionary: the quality of feeling energetic, or the behaviour of someone who feels this way
Longman Dictionary: happiness and full of energy and excitement
euphoria
Oxford Dictionary: an extremely strong feeling of happiness and excitement that usually lasts only a short time
Cambridge Dictionary: extreme happiness, sometimes more than is reasonable in a particular situation
Longman Dictionary: an extremely strong feeling of happiness and excitement which usually only lasts for a short time
frenzy
Oxford Dictionary: a state of great activity and strong emotion that is often violent or frightening and not under control
Cambridge Dictionary: uncontrolled and excited behaviour or emotion that is sometimes violent
Longman Dictionary: a state of great anxiety or excitement, in which you cannot control your behaviour
以上、frenzy がより、violent で、uncontrolled のニュアンスが強調されているのがわかる。英和辞典ではなく、英英辞典でないと、このような微妙な差は理解できないはずだ。
それでは、この exuberance、euphoria、frenzy を使った筆者によるオリジナル模範翻訳で、さらに応用力、創造力、発想力を高めるための実践練習をしておこう。
※ 原文の内容はすべて筆者のオリジナルである。日々世界で起こる膨大な情報ソースを基にしての着想により、金融、経済、社会情勢、あるいは数値などを含め、筆者独自の言葉で創作したnon-fiction (ノンフィクション) もあれば、fiction (フィクション) もある。
※ 翻訳の難易度を高める趣旨により意図的に日本文を長くしていることもある。
exuberance
【筆者によるオリジナル模範翻訳】
練習①
<原文>
「根拠なき熱狂」とは、資産価格をファンダメンタルズによって正当化されない高さまで押し上げる投資家の熱烈な意欲を意味する。
<筆者の模範翻訳>
“Irrational exuberance" means investor enthusiasm that makes asset prices shoot higher to prices not justified by the fundamentals.
練習②
<原文>
「根拠なき熱狂」という言葉は、アラン・グリーンスパン前FRB議長が1996年の講演「民主主義的な社会における中央銀行の課題」の中で発せられた言葉である。
『しかし、根拠なき熱狂が、正当化できる以上に資産価値を上昇させ、その後過去10年の日本がそうであったように、予測不可能で長期的な下落につながりかねないことを、我々はどうやって知ることができようか?』
<筆者の模範翻訳>
The term “irrational exuberance” was uttered by former Fed chairman Alan Greenspan in a 1996 speech, “The Challenge of Central Banking in a Democratic Society."
“But how do we know when irrational exuberance has unduly escalated asset values, which then become subject to unexpected and prolonged contractions as they have in Japan over the past decade?"
練習③
<原文>
原油や銅などのコモディティでさえも、多量の供給にもかかわらず上昇している。このシンクロした高揚感の理由は何か?
<筆者の模範翻訳>
Even commodities, such as oil, as well as copper are rising, despite hefty supplies. What is behind all of this synchronized exuberance?
練習④
<原文>
急上昇している株価は、ウォール街の過熱感を測る1つの指標を、2000年のドットコム・バブル崩壊直前以来の水準に押し上げている。
<筆者の模範翻訳>
Booming equity prices have been greatly driving one gauge of Wall Street exuberance towards levels not seen since immediately before the bursting of the dotcom bubble in 2000.
euphoria
【筆者によるオリジナル模範翻訳】
練習①
<原文>
米国株式市場の急騰により、主要株価指数はドットコムバブルが崩壊し始めた2000年以来の水準にまで上昇し、投資家のユーフォリアの兆候を示す上場銘柄が増えてきている。
<筆者の模範翻訳>
US equity markets run-up has pushed major indexes ever higher to the levels last seen in 2000, when the dot-com bubble began to burst, with many more publicly traded stocks in the US showing harbingers of investor euphoria.
練習②
<原文>
世界の株式市場は水曜日、米新政権の財政支出計画に対する過度の高揚感が、同刺激策を議会で通過させるには最終的には縮小される可能性があるとの懸念へと変わったことを受け急落した。
<筆者の模範翻訳>
Global stock markets tanked on Wednesday on euphoria over the new US administration’s spending plans giving way to concerns that its final fiscal stimulus package could be pared down in order to get it through Congress.
練習③
<原文>
世界各国の中央銀行や政府が実施した超低金利や資産買い入れなどの巨大な財政・金融刺激策やその効果への楽観が、現在のラリーの原動力となっており、ただ、そのような楽観視はすぐにでもユーフォリアに変化するかもしれない。
<筆者の模範翻訳>
The ongoing rally has been powered by mammoth fiscal and monetary stimulus, including very low interest rates or asset-buying program, carried out by central banks and governments around the world, as well as optimism over its outcomes, yet, such optimism may soon shift to euphoria.
frenzy
【筆者によるオリジナル模範翻訳】
練習①
<原文>
IPOへの熱狂の中、元ユニコーンの同企業は新規株式公開価格を1株あたり70ドルと、目標レンジを大幅に上回り、これは、同社のホームシェアリング事業や旅行業界全体の回復の可能性に対する投資家の自信の表れである。しかし、ロックダウンの再導入により、厳しい年末を迎えることになりそうだ。
<筆者の模範翻訳>
Amid IPO frenzy, the ex-unicorn has priced its initial public offering at $70 per share, well above its target range, which is a sign of investor confidence in its home-sharing business, as well as the potential recovery of the travel industry at large. The reinstatement of lockdowns, however, will lead to a challenging end to the year.
練習②
<原文>
米国大型株の指標として最も優れていると広く評価されているS&P500指数にビジョナリーな同電気自動車メーカーが組み入れられたことで、狂乱の売買の中、乱高下していた同社の株式は、史上最高値を更新した。
<筆者の模範翻訳>
The inclusion of the visionary electric automaker into the benchmark S&P 500 Index, widely regarded as the best single gauge of large-cap US stocks, sent its shares, which went through wild swings in the midst of trading frenzy, roaring to a new high.
練習③
<原文>
プライベート・デット(非上場企業が保有する、または非上場企業に融資を行っているものや、通常の銀行システム以外の事業体が民間企業に融資を行っているものを含む)は、高い手数料の資産クラスを創出したいと考えるファンド・マネージャーにとって、ますます話題となっており、とりわけ、従来のビジネスで苦戦を強いられている時にはなおさらである。しかし、このようなノンバンク融資のブームが続くと、すぐに非合理的な熱狂に発展する可能性があるので注意が必要だ。
<筆者の模範翻訳>
Private debt, including any debt held by or extended to privately held companies and also involving entities outside the regular banking system providing loans to private companies, has become an increasingly hot topic for fund managers who desire to build a fee-rich asset class, in particular, when their traditional businesses are struggling. Be warned, however, that the ongoing boom in such non-bank lending is likely to soon develop into an irrational frenzy.
以上、現行の金融・財政政策の中においては特に起こりがちである過剰流動性相場の投資家心理を表す翻訳語は、ぜひチェックしておきたいところだ。
本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:最高難度の語彙や日本人にはレアな語彙での金融翻訳 に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。
翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。