第7回の今回は、前回同様、金融分野におけるバズワード、 ankle biter!
このワードは、よほど金融の世界に通じていないとほとんどの日本人が知らない。だからこそぜひ知っておいてほしい。
ankle biter とは?
訳語としては、カタカナで “アンクル・バイター” と表現することが多く、定義としては、“時価総額500万ドル(約520億円:104円/ドル換算)以下の小型銘柄、企業” のことを指す。
英英ソースで ankle-biter の定義を確認しておくと、
米国Nasdaq (https://www.nasdaq.com/glossary/a/ankle-biter) では、
Nasdaq: stock issued with a market capitalization of less than $500 million.
とされている。
また、The Free Dictionary (https://www.thefreedictionary.com/)
The Free Dictionary: a publicly-traded company with a low amount of market capitalization
とあり、時価総額の小さな上場企業としている。
元々の意味は、「足首を噛む奴」 だが、欧米で特に子犬の振る舞いから連想された言葉でもあるところが面白い。小型だが攻撃的な犬のことを指していた言葉である。その発想から、金融分野以外では、「アンクル・バイター」は通常、元気のいい「幼い子供」を指す言葉として遊び心を持っても使用されている。英英辞典のOxford Dictionary でもその定義は、
Oxford Dictionary: a child
イメージとしてはこんな感じ。
(出典元: https://wanchan.jp/osusume/detail/8681)
詰まるところ、こうした小さいけれども、大きなものに負けずに果敢に挑んでいくという姿勢をとる企業(銘柄)ということだ。
このankle biter は、世界をリードするビジネス・経済ニュースメディア Financial Times でももちろんよく使われる。用例を一つ見ておこう。
<Financial Timesからの実用例>
Entrepreneur and educator Steve Blank says he used to call these corporate newcomers “ankle-biters” — a nuisance at worst. As he told last week’s Drucker Forum on management in Vienna, now some of these innovative companies are far better endowed than the incumbents.
<対訳>
起業家であり教育者でもあるスティーブ・ブランク氏によれば、かつてこのような企業の新参者を「アンクル・バイター」と呼んでいたそうだ。最も悪く言えば目障りな奴らだと。ただ今となっては、先週、ウィーンでのドラッカー・フォーラムで話していたが、現在、革新的な企業の中には、既存企業よりもはるかに質の高い企業もあるとのこと。
このように、ankle biter がしっかり登場。ここでは褒め言葉というよりもむしろ “生意気で、小ざかしい” ニュアンスを込めて使われていることが確認できる。もちろん、勢いのある、活きの良さをポジティブに表しても使われるのでいろいろなコンテキストで出てくるのが特徴だ。
では、最後にいつもお馴染み、このankle biterを使っての筆者のオリジナル模範翻訳で、さらに応用力、創造力、発想力を高めるための実践練習をしておこう。
※原文の内容はすべて筆者のオリジナルであり、fiction (フィクション) である。ただ、日々膨大な情報ソースを基にしての着想と創作により、世界・経済情勢の事実に即している部分もある。
【筆者によるオリジナル模範翻訳】
練習①
<原文>
シリコンバレーのインキュベーターからは、毎週のように新しいアンクル・バイターが頭角を現してくる中、より大きい既存企業は、市場での地位を維持するために、新たなイノベーションの方法を検討する必要がある。
<筆者の模範翻訳>
With fresh ankle-biters emerging from the incubators of Silicon Valley seemingly every week, larger, previously established companies need to consider new ways to innovate in order to preserve their position in the market.
練習②
<原文>
時価総額1000万ドルのアンクル・バイターを約10年で、20億ドルの買収ターゲットにまで育て上げたCEOが会長に就任した。
<筆者の模範翻訳>
The CEO, who helped take the company from a $10 million ankle biter to $2 billion takeover target in about a decade, has been appointed as Chair.
練習③
<原文>
アンクル・バイターは、テクノロジーによってそのような小さな企業でも自分よりも大きな相手とも競り合えるので、無視できない競争相手になっている。実際、彼らは、特に大企業が簡単に真似のできないペースとコストベースで、製品やサービスを提供する革新的なアプローチを生み出している。
<筆者の模範翻訳>
Ankle biters have become serious competition, as technology has provided such small companies with the ability to punch well above their weight. Indeed, they develop innovative approaches to products and services, in particular, at a pace and cost base the big companies simply can’t match.
以上、子犬の元気溌剌とした無邪気さを連想させる金融分野のバズワード ankle biter を知っていれば、さらに翻訳の幅は拡がるだろう。
本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:知っておきたい金融表現 に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。
翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。