金融分野において、訳せそうで訳しにくい日本語表現は意外と多い。訳していたとしても不正確かつ軽率な訳語をあてて誤訳になっていることも少なくない。そうした訳しにくい金融表現を含んだ英語例文として、筆者の模範翻訳をふんだんに紹介しながら解説する。

訳せそうで訳しにくい金融表現

金融翻訳では、時々登場する「ドル独歩高になる場面が増えることになりかねない」、「ナスダックの独歩高の理由は約6割を占めるITセクターが好調のためだ」などなど、この「独歩高」という表現。短いが、案外訳出しにくい。

かっこのわるい翻訳の例を

<原文>

「ドル独歩高になる場面が増えることになりかねない。」

<よくない翻訳例>

① This could lead to more situations where the dollar will appreciate on its own.

② There could be more opportunities for the dollar to rise independently.

など、appreciate on its own あるいは、rise independently として、文脈上、言わんとしてるところは読み手に解釈してもらえるだろうが、少々直訳的だ。

では、よりネイティブにも通用する洗練された訳出は?

<翻訳練習①>

<原文>

「ドル独歩高になる場面が増えることになりかねない。」

<筆者の模範翻訳>

① This could lead to more situations where the dollar will be a sole winner.

② We may see the sole appreciation of the dollar more often.

<翻訳練習②>

<原文>

「ナスダックの独歩高の理由は約6割を占めるITセクターが好調のためだ。」

<筆者の模範翻訳>

The reason for the Nasdaq’s sole rise is due to the strength of the IT sector, which accounts for about 60% of the market.

以上、「独歩高」= sole risersole winnersole gainer, sole appreciationsole rise

などで英語表現されるのが、欧米でも好まれるようだ。