金融翻訳チャレンジ

※「金融翻訳チャレンジ」メニューでは、毎週、筆者が課題文を提供。金融翻訳に挑戦してみよう!

※ 原文の内容はすべて筆者のオリジナルである。日々世界で起こる膨大な情報ソースを基にしての着想により、金融、経済、社会情勢、あるいは数値などを含め、筆者独自の言葉で創作したnon-fiction  (ノンフィクション) もあれば、fiction (フィクション) もある。

※ 翻訳の難易度を高める趣旨により意図的に日本文を長くしていることもある。

※ 筆者模範翻訳は、2021年1月10日(日)掲載予定

<課題文>

同米国債券ファンドの大手は、1960年代から今年の初めまで債券運用し、その最大の強気相場が追い風となった。ポートフォリオの運用には、今、抜本的な再考が必要だ。過去の教訓を活かせることもあるが、現在や未来との重なりは、著しく減少している。

<筆者の模範翻訳>

The US bond fund heavyweight has managed fixed income investments since the 1960s until earlier this year, riding one of the greatest bull markets in bonds. Now, Managing portfolios requires a radical rethink. There are some lessons learned from the past, with their overlap with the present and the future decreasing a lot.


<解説>

『同米国債券ファンドの大手は、1960年代から今年の初めまで債券運用し、その最大の強気相場が追い風となった。』

「米国債券ファンド」 = US bond fund

「大手」 = heavyweight

「債券運用する」 = manage fixed income investments

「債券」 = fixed income 

もちろん、bond でもいい。

bond といえば、国債 (government bond) や 社債 (corporate bond) などに代表されるが、そうした債券とFIXED INCOME (確定インカム)は同じか、という質問がよく上がる。基本的には同じである。英語の 「fixed income (確定インカム)」 という語彙は、債券の同義語として頻繁に使われている。それはインカムが確定している証券の中で、債券が最もよく知られているためだ。

厳密にいえば 「確定インカム」 とは、有価証券の発行体がある決まった時点に決まった支払いを行う義務を負う、ということを意味する。少し複雑なのは、債券には固定金利だけでなく変動金利の場合もあり、必ずしもあらかじめ確定した金額が支払われるわけではないという点だ。「確定」 とは、決められた時点で支払いを行う義務が確定しているという定義である。

「その最大の強気相場が追い風となった」 = riding one of the greatest bull markets in bond

ここは、riding と、分詞構文を使って、少し意訳。

直訳すれば、「債券相場の最大の強気相場に乗って」 ということである。

また、分詞構文を使わなければ、

The US bond fund heavyweight has managed fixed income investments since the 1960s until earlier this year, and it rode one of the greatest bull markets in bonds.

あるいは、

The US bond fund heavyweight has managed fixed income investments since the 1960s until earlier this year, while it rode one of the greatest bull markets in bonds.

など、接続詞を使っても翻訳できる。ただ、分詞構文を使った技は、ぜひ使いこなせるようになりたい。

one of ~  という表現は、「~ の1つ」 と具体的に1 つという表現がなくてもよく添えられるものだ。詳説すれば、「最大の ~」 と言っても、厳密に最大ではない場合も多く、あくまで言葉のあやとして強調したいときなどに使われる。したがって、そのままストレートに、 the greatest bull market とするよりも、one of the greatest bull markets と翻訳しておくほうが流暢さが高まる。

「追い風」 とくれば、tailwind(s) などを使っても翻訳できるが、敢えて他の語彙を紡いで意訳してみてもいい。

『ポートフォリオの運用には、今、抜本的な再考が必要だ。』

「抜本的な再考」 = a radical rethink

「再考」 の同義語は、

  • reconsideration
  • review

などもあるので覚えておきたい。

『過去の教訓を活かせることもあるが、現在や未来との重なりは、著しく減少している。』

「過去の教訓を活かせることもある」 = there are some lessons learned from the past

there is/are は、特に日本人には 「〜 がある」 の構文としてよく知られているが、「〜 を活かす」 など、動作/行動的にも表現できる点に留意したい。その意味で、この there is/are の活用の奥は、とても深く、ネイティブもどんどんライティングで使ってくる。筆者もその大切さを鑑み、本ブログ内で詳説しているので 第9回 【日本人の知らない There is/are ~ の世界 】をぜひ参照されたい。

「現在や未来との重なりは、著しく減少している」 = with their overlap with the present and the future decreasing a lot

with + O + ~ ing の形は、ワンランク上の翻訳を志すには、必須の英語表現法である。これも本ブログ内 第6回 【絶対にマスターしておきたい英語表現法 with + O + ~ing】にて入念に解説しているので、ぜひマスターされたい。

「現在や未来との重なり」 = their overlap with the present and the future

their は、lessons learned from the past を指す。つまり、「過去のアノマリー (合理的な理由はないものの、高い確率で起こるとされる相場の規則性や経験則)」 が、現在や未来には通用しなくなっているということだ。


本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:金融翻訳チャレンジ に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。

翻訳力ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。

では、また来週をお楽しみに!