<ぜひ知っておきたい金融表現> で紹介した筆者模範翻訳(完全オリジナル)を網羅。翻訳力を高める秘訣は、いくら質がよくても少量の例文で学習しているだけでは不十分で、量をこなすことが肝心だ。何事も質と量にこだわり、音読しながらの反復学習することが上達の要諦である。金融翻訳も然り。) ※ ごく一部記事内で引用した欧米メディアの実用例も含む

金融翻訳例文集:ぜひ知っておきたい金融表現

アニマルスピリット。金融分野に長らく関わっている人はもちろん知っているはずだが、比較的分野に新しい人にとっては、何のことかさっぱりなはず。金融用語にはこうした欧米から輸入されてくる用語も多く、時には日本語の意味で解釈し訳語があてられることもあるが、そのままカタカナで訳されることも多い。

アニマルスピリットは、どちらかと言えば後者だ。直訳は、「動物的な衝動」あるいは「投資意欲」などであろうが、アニマルスピリットとして日経新聞等でもそのまま登場する。

用語の由来は、経済分野に限れば(その他の分野ではもっと以前から存在していた)、あの世界恐慌の最中、1933年から米国で実施された財政救済策、ニューディール政策の理論的裏付けになったとされるジョン・メイナード・ケインズ(英国経済学者)にある。彼が1936年に出版した『雇用・利子および貨幣の一般理論』の中で登場した用語であり、経済・投資活動において頻繁に見られる主観的かつ非合理的な動機や行動を指している。ケインズは、この感情的な期待に左右される、経済のファンダメンタルズとも乖離しがちで首尾一貫しない心理を「アニマル・スピリット」と名付けた。

特に金融市場では、投資家やトレーダーらを中心にこのアニマルスピリットが引き金となって相場が乱高下することも多く、これに昨今ではアルゴリズム取引によるHFT (High Frequency Trade = 高速取引)の影響も加わり、従来の株、為替相場の格言、アノマリーが通用しなくなってきているとも言われる。


さて、それではアニマルスピリット = animal spirits (通常複数形扱い)の用例として、世界でも最も信頼されている代表的金融メディアである Financial TimesThe EconomistWall Street Journal から1文ずつ引用しておこう。その後に、さらに3文ほど筆者の模範翻訳を紹介しておきたい。

<Financial Times からの実用例>

He delivered a Budget that — to anyone who doesn’t read the news closely — will have made it sound as if the British economy was positively surging with animal spirits.

<対訳>  

彼は、ニュースをよく読まない人にとっては、あたかも英国経済がアニマルスピリット投資意欲)によって、急上昇しているかのように見える予算を発表した。

<The Economist からの実用例>

Are animal spirits returning to American capitalism? The surge in share prices, at least until the euro zone started to worry markets again, has led to a wave of mergers and an upward revision of corporate valuations across the board.

<対訳>

アメリカの資本主義にアニマルスピリッツが戻ってくるのか?少なくともユーロ圏が再び市場を不安にさせるまでではあるが、株価の急騰によって、相次ぐ合併と企業価値評価が軒並み上方修正された。 

<Wall Street Journal からの実用例>

An understanding of animal spirits — the human psychology and culture at the heart of economic activity — confirms the need for restoring the role of regulators as guiding hands in a healthy, productive free-enterprise system. History — including recent history — shows that without regulation, animal spirits will drive economic activity to extremes.

<対訳>

経済活動の中心にある人間の心理と文化であるアニマルスピリッツを理解することは、健全で生産的な自由企業システムの指針としての規制当局の役割を回復する必要性を裏付けている。 近年を含めて、歴史を見れば、規制なくしてアニマルスピリットは経済活動を極限にまで至らせると示している。

以上、animal spirits は、由緒ある金融ニュースやレポートでもしっかり使われるのでインプットとしてもアウトプットとしても正確に捉え、精通しておきたい。


最後に、翻訳力、すなわち英語力を高めるには質と量をこなすことが大切である。そのためにも、筆者の模範翻訳にてさらに応用力をつけておこう。

<原文>

経済理論上、バブルは市場における民族の均一性に影響され、多様性によって阻止されるとあり、したがってバブルが発生するためには、価格設定の誤りが広く共有されなければならず、そこでは常にアニマルスピリット(投資意欲)が作用している。  

<筆者の模範翻訳>

An economic theory holds that bubbles are affected by ethnic homogeneity in the market and can be thwarted by diversity, so for bubbles to occur, pricing errors must be widely shared, where animal spirits are always at work. 

<原文>

エコノミストやアナリストの発言が資産価格の回復を牽引したわけではなく、回復を先導したのは、投資家心理、アニマルスピリット、明るい未来への信念だった。 

<筆者の模範翻訳>

While remarks made by economists or analysts didn’t lead the recovery in asset prices, what led the recovery was investor sentiment, animal spirits and a belief in a promising future.

<原文>

一日で500億ドルを計上するディールメーキングにより、ブームが戻ってきており、米国株はアニマルスピリットの回復と景気後退懸念の弱まりを受けて過去最高値へと上昇した。 

<筆者の模範翻訳>

Whilst a boom time has backed due to dealmaking hitting $50bn in a day, US equities climbed to a new record on return of animal spirits and ebbing of recession fears.


こうした欧米から発信される金融用語にはとてもユニークで、ウィットに富んだものもたくさんある。常に最新のニュースやSNSなどからの情報を読み込み、そして洋書をはじめとした読書にも勤しんで知識をビルドアップしていきたいものである。

本稿内、筆者のオリジナル模範翻訳および金融メディア等からの用例は 金融翻訳例文集:知っておきたい金融表現 に、さらに本ブログ内すべての筆者による模範翻訳等は、に 金融翻訳・全項目800例文集 に網羅している。

翻訳力、ライティング力をはじめ、スピーキングなどの英語表現力も含めた総合的英語力の向上に、音読学習も取り入れながら、ぜひ活用されたい。