ワンランク上の金融翻訳

<ワンランク上の金融翻訳> 第1回は、”挿入” と ”同格” を使っての翻訳を確認していきたいと思う。

まず、筆者によるオリジナルの模範翻訳にてその用例を紹介しておきたい。

<筆者によるオリジナルの模範翻訳>

<原文>

「最近の株価下落において、米国株式市場が、経済的現実から乖離した強気派の群れに支えられ、バブル状態に陥っていると懸念されている。」

<筆者による模範翻訳>

Recent equity price drops are raising concerns that the US stock market, propped up by a herd of bulls deviated from economic reality, has been in a bubble.

まずはここで “挿入” として活用されている「支える梃入れする」などの意味として prop up という訳語はぜひ日頃からも使えてほしい。このような「〜を支える」という訳語としては support などがよく知られ、使いやすいとは思うが、いつも support ばかりでは翻訳に表現の豊かさが出てこないであろう。その点でも、例えば prop up などの方がワンランク上の英語表現である。他にも「支える梃入れする」の意味で shore upunderpin もぜひ覚えておきたい。

また、ここでは、the US stock market, propped up by ~ として propped up by という(過去分詞が、the US stock market という名詞句を修飾すべく形容詞的に使われているが、the US stock market, which is propped up by ~ などとして、関係詞でも可能。ただ、翻訳というものは、冗長的にならないよう、できるだけ短くまとめることも大切なので、1語でも少ない方がより引き締まった印象は高まる。ただ、ケースバイケースなので、分詞構文が続いていれば、代りに関係詞を使ってみたりなどのリズムも意識することが大切である。

もしこの “挿入” を活用しなければ、例えば、

<“挿入" を使用しない時の翻訳例>

Recent equity price drops are raising concerns that the US stock market has been propped up by a herd of bulls deviated from economic reality and it has been in a bubble.

などと翻訳もできるが、英文としては少々長くもなり、また文のスタイルとしてお世辞にも洗練しているとは言えないだろう。この比較でもわかるように “挿入” を使いこなすことはとても重要なのだ。

次に、”同格のthat節”。 concerns that S + V ~  「〜という懸念」などのように that はあった方が間違いがないが、ネイティブらは省略する場合もあるのでそれでも間違いではないことは知っておこう。この ”同格のthat節” 用法は金融翻訳に限らず、翻訳全般でも多用されるので使い慣れておきたい。

また、先行する名詞同格のthat は、並べて使うのが基本的ではあるが、離して使用しても大丈夫。

<原文>

「先週、米国の株式市場が暴落するのではないかという懸念が生じた。」

<筆者による模範訳文>

Concerns arose last week that the US stock market would crash.

など、concerns that節離れていても問題ない

ちなみに金融分野では頻繁に登場するこの「懸念」。訳語として、concern が筆頭ではあるが、いつも concern ばかりでは稚拙なので、他にも warinessvigilancejitterinessuneasiness, alertness レベルは覚えておきたい。 ただ、jitterinessuneasiness, alertness はどちらかと言えば、形容詞として使うこと方が多い傾向にはあるが、名詞としてももちろん大丈夫。その際、これらの語彙の中で、本稿のテーマである ”同格のthat節” 用法に絞れば、concern that S + V ~wariness that S + V ~、くらいが自然で、その他は単独で名詞として使うか、あるいは関係詞として使う方が普通である。例えば、

<同格ではなく、関係詞を使っての翻訳例>

翻訳練習①

<原文>

「株式市場のボラティリティーは、ある一定の警戒を促し、投資家が資産を売却する原因となる可能性がある。」

<筆者による模範翻訳>

Stock market volatility urges a certain vigilance, which may cause investors to sell their assets.

このことに関連して、”同格のthat節” の用法は、「〜という」意味なので、ついつい何でもかんでも 名詞 + that + S + V ~ としてしまいがちだ。例えば、「その会社が大損をしたという投資手法」を、「〜という」のニュアンスが日本語にあるからといって、an investment approach that the company made a massive loss とはしてはいけない。これは典型的な日本人英語で、ネイティブには解釈不能だ。”同格” とは、先行する名詞that の後ろの文が、イコールの関係が成立していなくてはならない。ここでは、 an investment approach ≠ the company made a massive loss であり、因果の関係で、”同格” とはならないのだ。

念のためここでの正解は、

<原文>

「その会社が大損をしたという投資手法」

<筆者の模範翻訳>

① an investment approach where the company made a massive loss

② an investment approach in which the company made a massive loss

あるいは、

③ an investment approach of the company making (or having made) a massive loss

など、特には、前置詞 + 意味上の主語 + ~ ing 形 で、日本人がけっこう使い慣れていない表現手法であるが、ワンランク上の翻訳を追求していくには絶対に欠かせない英語表現法なので、第2回 【ワンランク上の翻訳には欠かせない表現法:前置詞 + 目的語 (意味上の主語) + ~ing (動名詞)、前置詞 + 目的語 + ~ ing(現在分詞)】の詳説をぜひ学習されたい。

以上、”同格のthat節” は一見、簡単そうに見えて、案外正確に使いこなせていない日本人は多いので、正しく整理し、使いわけていこう。

念の為、”同格のthat節” が使える名詞を、以下にリストにしておいた。

<同格のthat節に先行できる名詞リスト>

意見・信念
belief 信念
certainty 確信
conviction確信
decision決定
desire欲求
determination決心
hope 希望
idea 考え
knowledge 知識
mind意見
notion概念
observation意見
opinion意見
point 論点
promise約束
question質問
suspicion疑念
thought 思考
view 考え


感情・懸念・警戒・
anxiety 心配
concern 懸念
confidence 自信
fear恐れ
feeling感じ
impression印象
pride 誇り
wariness 警戒心


認識・理解
realization自覚
recognition認識
understanding 理解


要求・命令
command 命令
demand 要求
duty義務
need 必要
order 命令
proposition提案
request要求
suggestion提案


予定・想定・可能性
assumpltion想定
guess推測
likelihood 可能性
possibility 可能性
principle 原則
probability 可能性
prophecy 予言
supposition仮定


言及
argument 主張
assertion主張
claim 主張
commentコメント
complaint 不平
confession告白
excuse 言い訳
explanation 説明
promise約束
protest 抗議
remark言及
reply 返答
statement声明
theory 


事実・結果
advantage 利点
agreement 同意
chance 機会
conclusion結論
difference 違い
discovery 発見
effect 効果
evidence証拠
exception例外
fact事実
ground 根拠
law 規則
mistake 失敗
result 結果
sign 兆候
truth真実


状態
danger危険


情報
announcement 発表
information 情報
instruction指示
message メッセージ
news 知らせ
report 報告
rumor 
saying 格言
story