英語学習については、本ブログ内でも、筆者独自のアプローチをさまざまなアングルから詳説しているが、本メニューでは、読者の英語力向上に一助でもなればと、筆者のもの以外で公開されている英語学習法を紹介してみたい。
今回は、『日本人が「いつまでも英語を話せない」悲しい原因: 英語学習で陥りがちな「4つの誤解」』として東洋経済 Online で掲載されていた学習法をとり上げてみた。
タイトルにもあるように、この学習法は、主にスピーキングにフォーカスしたものだ。
要点をまとめると、
<Key Takeaways>
- 英語はただ聞き流すのではなく、理解してインプットすることが大切。
- テキストのセンテンスを覚えるだけではなく、実際のコンテキストに応じた “自発的アウトプット” を心がける。
- アウトプットの際、間違いを恐れない。
- 難しい表現や長い文ではなく、簡単な言い回しでアウトプットする。
- 英語の暗記禁止。ではなく状況設定を変えながらのスパイラル学習で、自然に身につけていくもの。
筆者も全く安易な英語学習法としか思っていない、“英語をただ聞き流すだけでいい” 式のものへのアンチテーゼとして、「理解してインプットする」大切さをしっかり語っている。これには筆者も全く同感だ。本ブログ内 シャドーイングの極意 でも詳説しているように理解なくしてのインプットでは効果はあがりにくい。
また、スピーキングなど、アウトプットする際に、「間違ってもいいんだ」と勇気づけている。これも素晴らしい。ただ、「難しい英語など話す必要はありません!」「そもそもネイティブの英語は簡単!」などと繰り返し強調されているが、これは誇張し過ぎだと思う。超初級英会話レベルならそれでもいい。ではなく、ネイティブと同じ土俵に立つ、実際の日常会話でも、あるいはもっとハイレベルな留学やビジネスシーンなどでは、かなり難易度の高い語彙はもちろん、表現力や論理的にも整然としたアウトプット力も求められる。
したがって、重森氏の少なくとも本寄稿は、初級者へのスピーキングに特化した学習法としてはとても有効で、ぜひ実践すべきポイントも網羅されているが、中級や上級を目指す英語学習者には、少し物足りないものかもしれない。
日本人が「いつまでも英語を話せない」悲しい原因
英語学習で陥りがちな「4つの誤解」
重森 ちぐさ : Nextep代表取締役 兼 英語講師
東洋経済Online
2021/05/16 12:00
あまり聞きなじみはないと思いますが、「第二言語習得」という、人が言語を習得するプロセスを明らかにする学問があります。いわば“言語習得の科学”とも言えます。
この第二言語習得の観点から考えると、なぜ日本人が英語が話せないのかが見えてきます。日本人の英語学習には次の4つの誤解があると考えています。
【誤解①】たくさん聞き流せば話せるようになる
英語を毎日聞いていると、英語を勉強している気がします。とはいえ、わからないまま聞いていても“ただの音”にすぎません。だから、たくさん英語を聞き流しても、英語を話せるようにならないのです。
大切なのは、理解してインプットすること! 英語をただ聞き流すだけでは英語のインプットになりません。
海外留学をして、現地でネイティブの友だちができたら、その会話の中で学ぶことはたくさんあるでしょう。この状況では「こうしゃべる」というのがわかっていくからです。
でも、ただ単に英語を聞き流すというのは、場面も不明だし、誰がどういう状況で話しているのかもわからないので、頭に入ってこないうえに楽しくないですよね。
中国語やヒンディー語を聞き流していると想像してみてください。単語の意味もわからないのに聞き流したところで、しゃべれるようになるとは思いませんよね。
第二言語を習得するには、どの場面でどのような言い方をするのかを理解したうえで、自分で考えたものを口にする練習が必要です。これを「自発的アウトプット」といいます。「人は自発的にアウトプットすることで 言語を習得する」という理論です。
従来の英語教材には自発的アウトプットが圧倒的に足りません。例えば、英会話教室などのテキストで、
「テキストのAの単語をBの単語に置き換えましょう」
「主語をCからDに入れ替えましょう」
「普通の文を疑問文にしてみましょう」
というのは自発的アウトプットではありません。テキストの答えに合わせて自分が話しているだけです。実際のところ、英会話には答えはありません。センテンスを覚えるということは、言わされていることなので、それでは話せるようになりません。
reading、listening、writingという分け方も日本人が英語を話せない理由のひとつ。これらはバラバラではなく、ひとつの流れなのです。
人間の脳というのは、自分が発言できることは、ほかの誰かが同じことを言っても必ず理解できるようになっています。自分で「I like dogs.」と言えれば、ネイティブが「I like dogs.」と発したときに聞き取れるようになります。
英語学習の実験でも明らかになっていることがあります。人は、知らない言葉を初めて聞いたとき、最初はそれを理解することができません。ところが、その言葉の意味や使われる状況を理解したうえで練習するうちに、はっきり聞こえるようになるそうです。
英語を聞き流すというのは取っかかりやすいやり方なので、みなさんそこから始めるのだと思いますが、日本人の多くは英語学習の入り口を間違えているのではないでしょうか。
【誤解②】間違ってはいけない
なかなか英語が上達しない人に多いのが、「間違ってはいけない」と気にしすぎることです。これは「情意フィルター仮説」という理論と関わっています。「情意フィルター仮説」とは、人は感情の状態によって、言語の吸収率が5%にも90%にもなる、つまり負の感情を持っていると言語の吸収率が下がる、という理論です。
「情意フィルター仮説」は、第二言語習得研究の第一人者で言語学者のスティーブン・クラッシェン氏が提唱した説のひとつです。
クラッシェン氏は「第二言語習得をするうえで、情意フィルターが高ければ高いほど妨げになる」と言っています。つまり、これまでの「情意フィルターが高い状態で学んできた英語学習は間違っている」と言えるのです。
これが実は日本人が英語を話せない大きな要因になっているといっても過言ではありません。
私が教えてきたレッスンでも、間違いを恐れて発言できなくなるという生徒さんを何人も見てきました。だから私は、「間違ってもいいんだよ」という状況をつくることで生徒さんの情意フィルターを下げることを意識しています。
英会話というものを、学校や英会話スクールのようなテストではなく、クイズだと思って、とにかく英語を話すことを楽しんでみてください。
「a」や「the」や三単現の「〜s」も気にせずやってみてください。そのことで吸収率が上がり、いつの間にか「a」や「the」や三単現の「〜s」も使いこなせるようになります。
つまり、「ルート」を変えてあげるだけで、あなたの達成したい目標は達成できるのです。
もしあなたが間違えたことで、バカにしたり、笑ったりしてくる人がいたら、しめしめと思ってください。その人はおそらく「間違ってはいけない」という呪縛にとらわれている人。今後、その人は英語が話せるようにはならないでしょう。一方で、あなたはすぐにその人に圧倒的な差をつけることができます。
なぜなら、その人の吸収率は5%なのに対して、あなたの吸収率は90%、つまり18倍も成長スピードが違うわけなのですから。
【誤解③】長く美しい英語でなければいけない
あまり知られていない事実ですが、そもそもネイティブの英語は簡単です。それなのに、みなさん難しい英語で表現しようとする傾向があります。このことも情意フィルターを厚くして吸収力を下げてしまう原因です。
難しい英語など話す必要はありません! 例えば、「通勤する」と言いたいときに、日本人だとあえて「commute:通勤する」を使おうとしますが、ネイティブは「go to work」や「go to the office」と言います。
通勤にバスを使うか、それとも電車を使うかを伝えたければ「I go to work by train.」でかまいません。「通勤する」と「会社に行く」は意味が同じですよね。それならcommuteが出てこないから話せない、となるよりも、知っている単語で「go to work」と言えたほうがいいですよね。
それに対してネイティブが「それはcommuteって言うんだよ」と言ってくることはまずありません。そのほかにもニュースなど公式の場でたまに出てくる「diligent:勤勉な」なども日常会話では日本語でもあまり使わないのではないでしょうか?
ところが、英会話を始めたばかりの方などはcommuteやdiligentがパッと出てくるようになることを目指しているんですね。とくに、これまで勉強してきたという人に多いです。
同じ言葉の日本語と英語を比べた際、日本語だとこれくらい話せるけど、英語はこれくらいしか話せないとなるとストレスがたまります。ならば、日本語力を下げればいいのです。
例えば、「いただく」という日本語を英語で言おうとすると単語が出てきませんよね。そこで、「もらう」という簡単な日本語にしてみたら「get」と言えるのではないでしょうか。そこに気がつけば、もっと英語でのコミュニケーションが楽しめるようになるでしょう。
日本語と英語の差、自分とネイティブの差、すべてにおいて「レベルが上のほうを下げる。下のほうを上げない」ことです。
ただしこれは、みなさんの理想である「英語が話せる姿」を諦めてくださいと言っているわけではありません。レベルを下げてアプローチすると情意フィルターが薄くなり、吸収率も格段によくなって、結果みなさんが理想としている話せる姿になれるという「ルート」の違いの話なのです。
【誤解④】暗記すれば話せるようになる
英語を学んでから使おうという人が多いのですが、正しくはその逆─―「英語は使いながら学ぶ」ことが大切です。
英語力を高めるのに暗記する必要はありません。英語は文字ではなく状況から習得するものであり、そのために必要なのが「スパイラル学習」という理論です。「スパイラル学習」とは、人は“状況”から何度もくり返すことによって言語を習得する、という理論です。
例えば、
「I play soccer at the park.」
「I play soccer at school.」
「I play soccer with my friends.」
「I can play soccer very well.」
「I like playing soccer with my friends at school.」
このように次々と状況を変えると理解が深くなります。
『英語 2語トレ 世界標準の英語が話せる“言語習得の科学"に基づく学習法』(SBクリエイティブ)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします
ここで過去形の「I played soccer yesterday.」にしても「play soccer」は残っていますよね。こうして単語をひとつずつ増やして、成長していくのです。
スパイラル学習はその言葉が何回も出てくるので、勝手に覚えます。だから、英語学習であるべきは「暗記禁止」。覚えようとなどしなくても勝手に覚えるからです。
大人は単語を1回で覚えようとしますが、そもそもそれは無理な話。スパイラル学習で何度も使うほうが定着率が格段に上がり忘れなくなります。数をこなすほど間違いも増えてくる。こうして間違いにも慣れてくるので情意フィルターも下がり、英語力の吸収率も上がっていくという流れです。